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メディアとテクノロジーの交差点

ジェフリー・カッツェンバーグがモバイル向け短尺動画で新しい挑戦へ

 

 

 

DreamWorks AnimationをNBCUniversalに38億ドルで売却し、自らもCEOを退任したジェフリー・カッツェンバーグ(Jeffrey Katzenberg)。退任後は6億ドルを調達してWndrCoという会社を立ち上げたことまでは知っていたんですけれど、その後どうなったか調べるといろいろと暗躍しているようですね。

 

どうやらカッツェンバーグは、ミレニアル世代をターゲットにしたモバイル向けの短尺動画という領域で、もう一度大きな挑戦をしようとしているみたいですね。プライムタイムに放送されるような番組の予算規模で、10分以内の短尺動画を、プラットフォーマーと組みながらモバイル向けに展開するという構想。プリロール/ミッドロール広告はなく、プレイスメントなど動画内に広告が統合されているような形式を想定しているようですが、この取り組みのためにカッツェンバーグは20億ドルの資金を集めていると報じられています。立ち上げ時期など詳細は不明。

 

短尺動画という領域自体は全く新しいものではありません。BuzzFeedのTastyやCNNのGreat Big Storyなどが始まるずっと前から、ウェビソードやモビソードという名前で似たような取り組みが繰り返し行われてきました。ただ、広告による収益で費用を賄おうとすると、どうしても予算規模が小さくなってしまいました。記事によれば、モバイル向けの動画の予算規模は1分あたり5,000ドル-10,000ドルというのが標準的なサイズ。ただカッツェンバーグは、これをプライムタイムなみの1分125,000ドルまで引き上げていきたいと考えているようです。

 

ちなみにWndrCoという会社は、600億ドルも調達して何を始めるのかと思ったら、どうやらVimeo・Tinder・Expediaなどを傘下にもつIAC/InterActiveCorpのような会社を目指しているみたいですね。で、IACを率いているのはバリー・ディラー(Barry Diller)という人物。もともとParamount Picturesの会長だった人で、彼のアシスタントとしてParamountに入社したのがカッツェンバーグだったんですね。

 

そして、その時にParamount Picturesの社長だったのが、後にWalt Disney Co.の会長兼CEOになるマイケル・アイズナー(Michael Eisner)。カッツェンバーグはその後アイズナーが率いるWalt Disney Co.に移籍して、低迷していた当時の映画部門のトップに就任するんですよね。そして就任中に生み出したのが、第二の黄金期を築くきっかけとなった「リトルマーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ライオンキング」などの名作。個人的には「ロジャー・ラビット」も好きですが。何にしても、まさに立役者です。

 

その後アイズナーと対立してWalt Disney Co.を離れることになるんですが、それがまたきっかけとなってDreamWorks SKGが立ち上がるわけですね。SKGとは、つまりスティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)・ジェフリー・カッツェンバーグ(Jeffrey Katzenberg)・デヴィッッド・ゲフィン(David Geffen)のこと。DreamWorks SKGのアニメーション部門をカッツェンバーグがリードするわけですけれども、そこで生み出したのが「シュレック」や「カンフー・パンダ」などの人気シリーズ。何が起きるか分かりませんね。

 

その後作品がヒットせずスタジオ経営が不安定な状況に陥ったりもしていましたけど、AwesomenessTVなどを買収したこともあって、モバイル向け短尺動画という新しい領域に可能性を見出していたのかもしれません。何だか脈略がなくなってしまいましたけど、今後の動きが気になります。

 

 

 

 

 

レンタルDVDキオスク端末Redboxの動画配信サービスRedbox Digitalがいよいよ立ち上がる気配

 

 

  

 

レンタルDVDのキオスク端末を展開するRedboxが、以前報じられていたように、Redbox Digitalという名前で、動画配信サービスに再参入するみたいです。今Yahooの買収で名前が挙っているVerizonと2013年に共同出資でRedbox Instantを立ち上げ、リリース18ヶ月後に撤退した経緯があります。その後VerizonはGo90を立ち上げるなどして、積極的に動画配信サービスを展開しています。

 

 


Redbox DigitalはVODとESTが組み合わさったサービスとなる模様。キオスク端末ではDVD1枚1.50ドルという価格で展開していますが、これよりは確実に価格は上がる見込み。既にRedbox DigitalのiPadアプリがAppStoreでリリースされているようですが、スクリーンショットからはChromecastに対応しているようにも見えます。

 

 

 

 

Pandoraが Liberty Mediaからの買収提案を否決、提案額は34億ドル。

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Pandoraが Liberty Media(傘下にSirius XM Radio・QVC・Ticketmasterなど)による34億ドルの売却話を拒絶したと、WSJが報じています。1株15ドルのオファーに対して、Pandoraが20ドルを求めていた模様。

Spotifyと並んで人気が高いPandoraですが、昨年11月に競合サービスのRdioを7500万ドルで買収し、Spofityの後を必死に追っています。ただ、そもそも先頭を走っているSpotifyも損失を出し続けており、Pandoraも2016年の第一四半期で既に1億ドルの損失を出しており、消耗戦に突入している感じがします。

Pandoraが抱える7940万人のリスナーのうち、有料会員はわずか5%、それが全売上の19%を占有している状況とのことです。

 


大手パブリッシャーtroncの動画展開戦略、切り札は自動生成技術の採用

Los Angeles TimesやChicago Tribune などの新聞を展開するtronc(Tribune Publishing)の会長が、動画の本数を大幅に増やすとNYTが報じているのですが、そのやり方がすごいです。

 

具体的には1日あたりで配信する動画の本数が現状では数百本なのに対して、今後はなんと2000本まで増やす方針ということで、かなり意欲的なんですが、それを実現するために、動画の自動生成技術を活用するっていうことで、二重に驚きました。もうそんなところまでいっているのですね...

 

動画の自動生成技術を提供する会社は大きく2つあって、それがWochitWibbitzという会社なのですが、troncは後者と今回提携して動画を制作していくようです。

 

WochitとWibbitzは、ともにニューヨークとテルアビブに拠点を持って事業展開しており、前者はTime Inc.・CBS Interactive・The Huffington Post・Rotten Tomatoes ・NowThis Newsが活用、後者はtroncの他にBonnier・Hearst・Gannett・Weather Channelが活用しているとのこと。

 


分かりきったことですが、動画をつくるのはそれなりにコストがかかるわけですが、さすがに全てを自動生成するというところまではいかないものの、ある程度フォーマットが固まっていれば、自動生成技術によってコストを抑制して動画の量産体制を組むことができるようになるのかもしれません。

実際にこれらの技術を活用して作成された動画が下記に掲載されていますが、特に人がつくったものと遜色がないように思えます。

 

 

 

As Online Video Surges, Publishers Turn to Automation

アップル初のオリジナル番組は開発者・起業家のトップを競うコンペティション番組

 

 

 

アップル初のオリジナル番組はコンペティション番組「Planet of the Apps」、100人の開発者/起業家を募集へ。すでに春に発表されていた企画だが、今回詳細が明らかに。募集締切は8月26日まで、収録はロサンゼルスにて今年の終わりそして来年頭にかけて予定されており、来年公開予定。

 

これはオリジナル番組と言っても、開発者を集めるための自社ブランデッドコンテンツの要素が強く、アップルが自らOTTサービスを始めるという噂に沿うものでも無さそうだが、Vice Mediaと音楽ドキュメンタリー番組を作る話もあり、どういう意図かはまだ見えにくい。

 

いずれにしても、日本人の開発者もエントリーしてほしいですね。アップルのことだから、かなりダイバーシティを意識してキャスティングするはずですから。

 


レンタルDVDキオスク端末のRedbox、動画配信サービスに再参入か?

 

 

米国でスーパーマーケットに行くと出入口やレジ周りに、自動販売機みたいなレンタルDVDのキオスク端末があるのですが、これを運営しているのがRedbox。文字通りの赤い箱なんですが、この会社がRedbox Digitalという動画配信サービスをまた始めるようです。

 

「また」というのは、実は過去にVerizonと共同出資でRedbox Instantという、Netflix対抗の意欲的なサービスを始めたのですが、ローンチ後18ヶ月で閉鎖したという経緯があるからなんです。18ヶ月で止めるっていうのも、なかなか決断が早くて、それはそれですごいと思うんですけれども。始めるより、止める方が難しいので。

 

その後VerizonはAOLを買収し、無料モバイル動画配信のGo90を始めたり、かなり動画配信に注力していますが、Redboxはというと年々売上が下がっていました。これだけNetflixで映画を見るようになると、いろいろとシンドイものがあります。

 

よく読むと、Redbox DigitalというのはNetflixっぽいサービスを推進しようと考えているわけではなく、iTunesで展開されているようなレンタルモデルを展開しようとしているっぽいですね。米国では劇場公開からVOD配信まで記憶が正しければ90日開けるというのが慣例だった気がするのですが、Redboxは新作のレンタルで確たるポジションを築きたいのかもしれません。Netflixに対抗するために新作レンタル配信を狙うのは、それはそれで理にかなっている気もします。

 

ただ、最近Sean Parkerが劇場公開と同時配信を50ドルで実現するモデルを推進していたり、NetflixAmazonが作品の権利を買って90日のルールを壊しつつあるので、新作のレンタル配信でポジションを築けるのか、正直よく分かりません。

 

そもそも、場所によってはAmazon Freshみたいなデリバリーの登場で、スーパーマーケットに行く頻度自体が下がっていると思うので。さてさて。

 


Vice Mediaの創業、そして成功を捨ててニューヨークに渡った1999年のユニコーン前史の話

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ここ数年、Vice Media(以下Vice)の動きについてメディアでもかなり取り上げられることも多いと思うのですが、創業期ってどんな感じなのかなっていつも気になっていたんですね。もともとはフリーペーパーだったということは知っている人は多いと思うのですが、具体的にどういうメディアだったのかとか、どういう風に事業を拡大させていったんだろうとか、そもそもどうしてフリーペーパーをやろうと思ったのか、そういう話ってあんまり聞かないんですよね。というよりも、そもそもメディアの創業ストーリー自体が世の中に殆ど出てこないんですよね。私が知っている限り「メディア界に旋風を起こす男 ブルームバーグ」と「ビジネスはロックだ! 伝説のMTVトップが明かすグローバル経営の成功法則」くらいしか読んで面白い話はありません。

そんな時に、たまたま1999年当時のViceを取材したドキュメント番組をYouTubeで発見したので(後述)、これを機に1994年の創業から2000年くらいまでのViceの動きを、分かる範囲でちょっとまとめてみたいなと思いますよ。

 

はじめに、Viceについて語る時、何かとShane Smithばかり注目されがちですが、源流を辿るとむしろSuroosh Alviに言及しなければ何にも始まらないということが分かります。Viceの創業者はSuroosh Alvi・Shane Smith・Gavin McInnesの3人なのですが(Gavin McInnesはその後Viceを辞めて、今は共同創業者として名前も載っていませんが)、もともとはSuroosh Alviが他の二人を巻き込んだことから始まるんですね。そんなことも含めて、ちょっと調べながらまとめていきたいと思います。

 

パンクロックに傾倒したSuroosh Alviが雑誌をつくるまで

 上写真はVice MediaのCo-FounderのSuroosh Alvi

 

Suroosh Alviは1969年生まれ。パキンスタン系カナダ人であり、父親はUniversity of Torontoでカウンセリング心理学の教授を、母親はMcGill Universityで南アジアのイスラム教を研究する歴史学者でした。80年代初頭、母親がUniversity of Minnesotaで教えるため、Suroosh Alviも母親に付いてミネアポリスに引っ越します。当時はHüsker DüやThe Replacementsなどの全盛期。彼自身レコードレーベルでバイトをしていたこともあり、これがきっかけでパンクロックに傾倒していくことになります。パンクロックの雑誌をやろうと思う発端は、こんなところにありました。

Suroosh Alviは91年にモントリオールのMcGill Universityで哲学を学び、その後1年英語を教えるためにスロバキアに渡ります。そしてトロント大学で心理学の修士号を取得するためにカナダに帰国、モントリオールに戻ってヘロイン中毒のリハビリ中にパンクロックの無料の雑誌をつくることを思い立ちます。

しかしすぐにこのアイデアに欠陥があることに彼は気づいてしまいます。Suroosh Alviはそもそも編集の経験がなく、誰も仕事を与えてくれなかったのでした。加えてモントリオールは住民の大半がフランス系で、第一言語もフランス語。そのため、90年代初頭はフランス語が上手く話せないような人は、メッセンジャーか行政がらみの仕事にしか付けなかったそうです。

 

職業訓練の一環で立ち上がったVoice of Montreal、そしてViceへ

しかし1994年、ハイチの非営利組織であるImages Interculturellesが展開する職業訓練(welfare-to-work)の一環で、どういうわけか新しく英語の出版物を立ち上げるという話を聞きつけて、編集経験が皆無だったSuroosh Alviが手を挙げて任せられることになります。そして1994年10月に出来たのが今の「Vice」の起源となる「The Voice of Montreal」でした。ちなみに初号の巻頭インタビューはThe Sex PistolsのリードヴォーカルだったJohnny Rottenでした。

Gavin McInnesは初号ではコミックを担当し、2号目からアシスタントエディターとして関わるようになり、そして数号発行した後にGavin McInnesの提案で営業経験が多少あるShane Smithに加わってもらうようになります(ちなみにGavin McInnesとShane Smithは12歳からの知り合い)。そして「The Voice of Montreal」の名前を「Voice」に改称します。3人はパンクロックやドラッグについて書き連ねては、カナダ中のレコードショップや洋服屋・スケートボードのショップなどでフリーペーパー(雑誌というよりもタブロイド誌のような体裁)を配布、徐々に人気を博していきます。

しかしその後パブリッシャーと編集方針で揉め、結果として3人は1996年に「Voice」の事業を買い取ることになります。そして、これがきかっけとなって、「Voice」の”o”を抜いて「Vice」に改称します。(これはある種の冗談で、実際にはニューヨークの「Village Voice」と雑誌と商標で揉めていたという話もあったみたいですが)

この時、3人は親からそれぞれ5000ドルずつ借り、モントリオールに新しい別オフィスを作り、トロントに広告営業をしながら引き続き編集・出版を続けていくわけですが、その後どこに配布しても100%持ち帰ってもらえるほど、カナダの若者(特に10代)から絶大な支持を得るに至り、誰もが知る存在となります。

 

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photo by vice.com

 

嘘から出たまこと、Viceの資金調達と世界展開

1998年、絶頂だったViceのShane Smithはインタビューで、モントリオールでソフトウェア会社を起業して大成功をおさめたRichard Szalwinski(Behaviour Publishing・Normal Networks・Discreet Logicなどを創業)がViceを買収したがっていると嘯くのですが、これがきっかけでRichard SzalwinskiがViceの株式を本当に25%取得することになります。「嘘から出たまこと」とはまさにこのこと。その時の時価総額は400万ドル、今思えばバブル以外の何者でもないのですが、デューデリジェンスも何もしないで決まったそうです。

そしてこの調達を機にViceはモントリオールの成功を捨てて、世界のメディアブランドになるためにニューヨークのマンハッタンへと拠点を移し、多角的な事業展開をしていきます。ちょうどその前後を捉えたドキュメンタリー動画がこれです。ちなみにRichard Szalwinskiが株式を保有していた「Shift」という雑誌(カナダのWiredみたいな雑誌みたいです)も、この時一緒にマンハッタンに行くことになります。

 

この動画はカナダのライフネットワークで1999年に放送されたドキュメント番組。ディレクターのLisa Gabrieleは、Viceのライターとして数年関わり、その後にこの番組を撮っているのですが、当時の様子がよく伝わってきて実に興味深いです。ニューヨークでロフトを探し、そこへ引っ越すまでの間に行われたインタビューで構成されているのですが、冒頭からShane Smithの無邪気さが、なんとも言えません。この動画について言及している日本語のブログやメディアが殆どないので、自分もその存在を知りませんでしたが、一見の価値があります。

 

"Vice is done in Canada, we're never going to get more successful than we are, there's no challenge,"

カナダはやりきった。これ以上成功は見込めないから、挑戦もない。

"New York, we're nothing, you have to start all over again."

ニューヨークでは私たちは何者でもない、出直さなければならない。

 

インタビューの中でShane Smithは勇んでこう語ります。一方親近感が湧くのが、全てを捨ててニューヨークで挑戦することに大きな不安を抱いていたということを伺えるところです。Gavin McInnesは動画の中でこういう風に語っています。

 

"I'm scared of having to be poor there,”

貧乏に戻るのが怖い。

"Or another brutal nightmare would be having to move back, coming back here with our tails between our legs."

或いはもう一つの残酷な悪夢はカナダに戻ること、ニューヨークからしっぽを巻いて逃げ戻ることだ。

 

モントリオールでは、どこに言ってもチヤホヤされていた3人が、ニューヨークに移るなりプレッシャーに押しつぶされそうになる。Gavin McInnesは背中に謎の蕁麻疹ができ、Suroosh Alviは髪が抜けて、Shane Smithは星が見えたと言う。この3人でも当たり前ながら不安と緊張があったんだなと思うと、数多あるスタートアップと同じように、色んな課題を乗り越えていったんだなということが明確に分かります。当たり前ですが、いきなり成功したわけではないんですよね。

ちなみに事業をスケールさせるためにマンハッタンに拠点を移して以降、Viceはストリートファッションを売る実店舗をトロント・ニューヨーク・ロンドンに展開、若者から絶大な支持を得てどんどん成長していきます。そしてRichard Szalwinskiのもと、収益化よりも何よりも事業拡大を最優先して、とにかく前だけ向いて全速力で走り続けます。しかしドットコムバブルが崩壊。残ったのはなんと500万ドルの借金でした。3人は2000年にRichard SzalwinskiからViceの権利を買い戻し、実店舗も閉めて、借金を精算し、家賃2万ドルのマンハッタンのロフトからブルックリンの倉庫に移ることになります。結果として、このことで収益がかなり改善されることに。ただ、この2年は地獄だったとSuroosh Alviは後に語っています。

しかしコンフォートゾーンから抜け出したことによって、その後の成長は、みなさんのご存知の通りの展開になるわけです。実に面白いですね。

ちなみに、その後Tom Frestonとの出会いが、更なるPivotalなポイントになるわけですが、それは以前書いたので、こちらを読んでみてください。

事実は小説よりも奇なり、とはこのことですね。

 

Uncommon reading material : McGill News

Vice Goes Global | Ryerson Review of Journalism :: The Ryerson School of Journalism

 

 

 

米Hulu、サブスクリプションと広告の収益比率は半々、広告フリーの有料オプションは結局利用されず

 

 

米Huluは、NBCU・Fox・Disneyのジョイントベンチャーとして、もともと広告モデルで見逃し配信を主軸で展開していたと思いますが、収益化ポイントを拡張させるために、2010年に$7.99の有料Tier(旧Hulu Plus)を展開を開始。結果として現在はサブスクリプションによる収益と広告の収益の比率は半々になっている状況。そして70%のユーザーがテレビで視聴しているとのことです。ちなみに2015年4月には有料会員は900万人に到達していると発表しています。

有料なのに広告が入っているのはおかしいという批判もあって(それを言い出すとケーブルテレビや雑誌は有料なのに広告が入っていますが)、Netflixの手前じわじわとブランドイメージが下がっており、ついに2015年9月に$11.99の広告フリーのオプションを発表。ただ、結局殆どのユーザーは$7.99のTierに留まっていて、その後クレームはパタッと消えたということです。

2013年10月にJason Kilarから受け継ぐ形でCEOになったMike Hopkins(Huluには2011年にJoin)ですが、就任後に役員たちのポジションを整理。スタジオ出身者が多いこともあってか、当時はコンテンツとマーケティングの話ばかりが議論の中心になりがちだったようですが、結局こうした役員たちは殆ど会社を去り、CEO就任後2年間でHuluは新たに300人を採用。その殆どがエンジニアやプロダクト開発担当で、アドテクに投資を続けてきたそうです。ちなみに広告による収益化で今後重要なのはサードパーティーによる広告測定と指摘しています。

昨今は配信番組ではFoxの大人気ドラマ「Empire | Empire成功の代償」などの独占配信権の獲得、そしてこれからリリースされるJJ Abramsのオリジナルドラマ「11.22.63」(原作はStephen King)などの配信なども進めており、Time Warnerからの出資の話も出てきているので動向が気になります。

Mike Hopkins:Huluに関わる前はFox Networks GroupのPresident of Affiliate Sales and Marketingとして、全米45のチャンネルのディストリビューション・セールス・マーケティング・戦略を統括。またBTN2Go・FXNOW・FOX Sports Go・FOX NOWなどFoxのデジタル関連サービスを担当。

 

 

 

 

 

 

Otter Mediaがアニメ動画配信サービスのCrunchyrollの親会社Ellationに2200万ドル出資

 

Otter Media(The Chernin GroupとAT&TのJV)が、アニメ動画配信サービスのCrunchyrollの親会社Ellationに2200万ドル出資。

Ellationは、Otter Mediaが買収したCrunchyrollとCreativeBugを切り出して立ち上げた別会社。この調達を機にCrunchyrollでのオリジナル番組の製作を加速させるとしている。ちなみに先日住友商事とCrunchyrollがアニメ投資のファンドの設立を発表したばかり。

現在登録ユーザー2000万人、年末までに有料会員が75万人に到達見込み。有料Tierは6.95ドルと11.95ドルの2つ。ちなみにdアニメは月額400円で有料会員200万超。

 

ヒップホップの教祖Russel Simmons率いるAll Def Digital、YouTubeチャンネル登録者数100万突破でマルチプラットフォーム展開へ

とにかく再生数を集めるMCNモデルから、ターゲットが明確なバーティカルなオンライン動画メディアブランドの時代に間違いなく移ってきている中で、All Def Digitalのチャンネル登録者数が100万人を突破、なかなか好調に推移しているようです。

 

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All Def Digitalは、ヒップホップの歴史(というより音楽の歴史)を語る上で絶対欠かすことができないDef Jamを、Rick Rubinと共に創設したあのRussell Simmonsが、自身の会社であるRush Digital MediaとAwesomenessTVの支援のもと、2013年に立ち上げたオンライン動画メディアブランド。バイアコム傘下のBET(Black Entertainment Television)のオンライン版とでもいうべきポジションで、いわゆるアーバンミュージックが好きなミレニアル世代がターゲットとなっているYouTubeチャンネルです。初期からオリジナルコンテンツの製作に積極的で、支援元のAwesomenssTVのスタジオ(West Hollywood)で活用していました。 

 

Russell Simmonsは1984年に創設したDef Jam Recordingsで、Public Enemy・The Beastie BoysLL Cool Jなど、伝説のアーティストを多数輩出、その後Phat Pharmというファッションブランドを立ち上げて巨万の富を築きました。さらに「Def Comedy Jam」というアフリカン・アメリカンスタンドアップコメディアンを取り上げた番組をHBO向けにプロデュース。商才がすごくて、天才プロデューサーと呼ばれている人物です。

そんなRussell Simmonsは、今度はケーブルテレビの専門チャンネルを立ち上げるということを考えていたそうです。しかし、専門チャンネルはオリジナル番組の製作にコストがかさむのと(初期は放送枠をとにかく埋めなくてはならない)、何より時代はそっちじゃないっていうことを捉えて、オンラインにフォーカスすることを決めたそうです。ちなみに、逆にこの時期にSean Diddy CombはRevolt TVという専門チャンネルをケーブルテレビに立ち上げていますが、視聴者の獲得に苦労してるという話もあります。

 

“There was Tastemade for food, MiTu in the Latino category, Styehaul – all these vertical players that you know. No one had really stepped up into the category that historically is referred to as urban.”

 

「食」に特化したTastemadeやラテンアメリカ人向けのMituなど、様々なバーティカル動画メディアのブランドが立ち上がっていたのにも関わらず、まだアフリカン・アメリカンのミレニアル世代向けのオンライン動画メディアのブランドが立ち上がっていない。そんなことも、All Def Digitalをオンラインで立ち上げようと考えた大きなキッカケだったと、All Def DigitalのPresident/COOであるSanjay Sharmaがインタビューで振り返っています。

All Def Digitalは、その後シリーズAのファイナンスでGreycroft Partners(Maker Studios・AwesomenssTV・HuffPostなどにも出資)・Advancit Capital(米国のメディア界のドンとも言えるCBSViacomのオーナーであるSumner Redsotneの娘であるShari Redstoneが運営するファンド)・Nu Horizons Investments・e.venturesから総額500万ドルを調達。

人材獲得やオリジナル番組の製作を加速させるとし、経営体制も強化。調達に先駆けて、2014年7月にはゲーム特化のMachinimaの初期からの社員で、VP of Strategy and Business DevelopmentとしてMachinimaをリードしていたSanjay Sharmaを初のPresident/COOとして採用しています(Machinimaの前はWarner Bros. Picturesのビジネスと法務の部門で働いていたようです)。

 

写真左がSanjya Sharma, President/COO of All Def Digital

ちなみにこの調達が発表された2014年8月時点のチャンネル登録者数は275,000人、累計で5,200万以上再生されていました。そこから1年ちょっとで登録者が100万超っていうのは、かなりの伸び率です。

さて、All Def Digitalは、多くのMCN(Multi-Channel Network)がMPN(Multi-Platform Network)と呼ばれるのに倣うように、YouTubeだけでなく、今後Facebookを中心に他のプラットフォームへの展開を強化。 またAll Def DigitalはHBOとファーストルックディールを結んでいて、番組の企画開発も進んでいるようです。Viceと同じように、最終的にはケーブルテレビの専門チャンネルになるというシナリオも、中長期的にはあるかもしれません。

FacebookやSnapchatなど、動画に注力しているプラットフォームが台頭してきている中、バーティカルでオリジナルの動画を配信するメディアブランドがどんどん注目されていくのは、間違いないと思います。